大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)1762号 判決

被告人 藤川忠一

〔抄 録〕

記録によれば、本件公訴は当初傷害罪の訴因で提起され、その後過失傷害罪の訴因が予備的に追加されたのであるが、両者の公訴事実に同一性があることはその内容からして明らかであり、原審は審理の結果予備的訴因である過失傷害罪を認定したのである。そして大倉政恵の昭和四九年六月一六日付司法警察員に対する供述調書には、「何の理由もなく怪我をさせられてしまったことは絶対にゆるすことができませんので警察でよく調べて厳重に処分してください。お願いします。」との記載があり、これによれば、同女が本件受傷の事実について告訴をしたことが明らかである。そして右告訴は本件受傷の事実について傷害罪とも過失傷害罪とも明示していないが、告訴は被害者その他一定の者が捜査機関に対し犯罪事実を申告して訴追を求める意思表示であって必ずしも罪名を申告する必要はないのであるから、右告訴は適法であり、かつ、その効力は本件の本位的訴因である傷害罪にもまた予備的訴因である過失傷害罪にも及ぶことは明らかである。仮に被害者が右告訴に際し罪名を明示しなかったのは、本件受傷の事実は当然傷害罪に該当すると考えたからであって、被害者の真意は所論主張のように傷害罪として告訴する趣旨であったものとしても、右告訴の効力は公訴事実を同一にする本件過失傷害罪にも及ぶと解するのが相当である(大判、昭和八年一〇月三〇日、刑集一二巻一八五四頁、同昭和一〇年四月八日、刑集一四巻四〇一頁参照)。(二)また所論指摘の示談書には、被告人が「治療費全額を負担しまして双方共本件に関しては今後断じて異議なく任意に示談解決致しました」との記載があるだけで、損害賠償の問題については解決済みとなったことは認められるが大倉政恵において先にした告訴を取消す意思があることは全く表示されていないから、右示談書の提出をもって告訴の取消があったとはいえず、記録全体を検討してみても他に告訴の取消を認めるに足りる資料はない。したがって、原判決に不法に公訴を受理した違法はなく、論旨はいずれも理由がない。

(上野 藤井 山木)

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